有形文化財等を保存しながら活用する方法として、文化庁は「保存活用計画」を定めています(重要文化財のために策定された計画ですが、登録有形文化財に対しても重要文化財に準じるよう方向付されています)。建物の価値を実際に活用しながら、次の世代に残していくための優れた計画ですが、文化財に指定されていない建物にはかなりハードルが高い内容になっています。
そこで「保存活用のための計画」は文化財に指定や登録されてない歴史的建造物に対して、「保存活用計画」のエッセンスを検討できるよう、柔軟性を持たせた計画として再構成したものです。歴史的建造物の価値を活かしながら、社会的な実情を加味した上で、持続的な活用を目指しています。歴史的建造物を活用していく中で、国の登録有形文化財への登録を目指す場合は、この計画が登録申請の基礎資料として利用できます。
歴史的建造物は、その古さから防火性能や耐震性能、活用上の用途において現行法規に合致しないケースが多くみられます。活用にあたり建物を基準を満たすまで改修できればよいのですが、なかかなそこまでできないのが現状です。完璧ではない状態の中で、歴史的建造物の活用を探る検討が「保存活用のための計画」の目的の一つと言えます。
活用をスタートしながら、足りない部分を段階的に改修していく方法も考えられます。あるいは、建物の改修(ハード面)ではなく、建物の利用方法(ソフト面)で、問題を解決できることもあります。「保存活用のための計画」は個々の建物の状況に即した最善の方法を検討します。
「保存活用のための計画書」の構成
(1)計画の概要 :建物の背景とその価値づけ
(2)保存管理計画:建物の劣化や損傷の把握、価値づけの優先順位
(3)環境保全計画:建物の周辺環境の状況、ハザードマップとの関連性
(4)防災計画 :防火、耐震、耐風に対する状況
(5)活用計画 :関連法規を踏まえ、総合的に活用を検討
この考え方は歴史的建造物に特化したものではなく、既存の建物に対してその価値を判断し「残すことろ」と「変えるところ」を取捨選択する方法であり、一般的なリフォームにも使える普遍的な方法です。大規模なリフォーム・リノベーション、古家の建物の相続、古民家を購入時など、工事を検討する前にご相談ください。
事例写真は東京郊外に1958年(昭和33年)に建てられた木造平屋建ての古民家です。玄関を入って正面に廊下のある「中廊下型住宅」で、空き家をデザイン編集会社が中心となり事務所兼文化複合施設としてとしてDIYリフォームを行いました。地域に開かれた日本家屋として活用されています。今後の活用と維持管理に当たり「保存活用のための計画」を作成するお手伝いをしました。
※写真の図や工程は参考事例であり、実際の計画とは異なります。
歴史的建造物、保存活用計画、劣化調査、耐震診断、建築関連法規適合調査、有事の行動計画