新着情報

約5°の意図

  • 酒井哲の何でもノート
  • 2014.02.20
OLYMPUS DIGITAL CAMERA

13年度の仲田の森遺産発見プロジェクトでは大成建設自然・歴史環境基金と
NPO法人歴史建築保存再生研究所歴史建築保存調査助成を取得し、
日野市に現存する旧蚕糸試験場第一蚕室の建物調査を行いました。

建築時の昭和6年の設計図書の一部が出てきたことから、当時の姿が明らかになりつつあります。

配置図には、蚕室中心線(東西軸)を「約5度」振ると明記されていたのです。
この「約5度」と書かれた方位が気になりあれこれ考えていました。

何故「約5度なのか……。

まず5度の意味は磁北と真北の偏差のことで、
偏差を修正して建物を真南に配置したのだと思われます。

では何故「約」なのか……5度と具体的に描いてもいいはずですが……

当時の現場ではコンパスの目盛りを読んで磁北を割り出していたと想像できます。
その中で5度を正確に出すのは難しかったのではないでしょうか。
そこで、このような表現がちょうどいい塩梅だったと思われます。

数値よりも、磁北のままではなく、
蚕室を少しでも真南に配置したいという意思が読み取れます。

現在では企画段階の図面で数値に「約」を使うことがあっても
設計図書の配置図を「約」のまま描くことはありません。
また「約」表記の配置図では建築確認申請を通すことができないのです。

実際の建築現場でもデジタル化が進み、確実に数値が出ます。
計測も目盛りを読むのことから、画面に表示される数値を読むことが多くなっています。
2点間の距離を計るとミリ単位でも小数点2位まで計れますが、
一般の建築設計ではそのような精度は必要ないことの方が多いのです。

デジタル化で便利になりましたが、
不必要な精度に時間を割かれる矛盾が生じているのが現在の現場です。
そして、体で計っていた時代から、数値を読み取る時代への移行で
実際の距離に対する身体感覚も鈍くなっています。

「約」で、ものごとがうまくいくような、
アナログな勘所は大切にしたいものです。