「尺寸」日本無線三鷹製作所 三鷹市
- 2004.11.01
日本無線のエントランスゲートを通過して最初に目に入るのが101号棟だ。そのシンメトリックで重厚な外観からは鉄筋コンクリート造の建物のような印象を受けるが、実はこの建築は木造でしかも尺寸で建てられていた。設計図の写しを拝見したが、桁行き方向が120尺と非常に切れのいい数字であった。昭和34年の計量法の改正までは、メートル法と尺貫法のどちらも公認の単位だったのでどの尺度を使うかは設計者に委ねられていたが、昔から鉄筋コンクリート造はメートル法で設計するのが主流だったようだ。鉄筋コンクリート造のような外観の101号棟でも内部は骨の髄まで日本的な木造建築であるところが面白い。デザインではなく構造で寸法体系を使い分けていたことが想像できる。
昭和34年以降はメートル法しか使えなくなったが、多くの木造建築は現在でも尺寸を基本に設計されている。1尺を909mm または910mmに換算して設計するので寸法の切りの悪さは並大抵ではない。中には909/4などどいう寸法も登場する。メートル法ではお手上げだが、これは7寸5分のことで尺寸で考えれば普通の寸法となる。流通している材料も実は尺寸を基本にしているものが多い。木材の長さは3mや4mといったメートル単位で決められているのに対して、柱の太さや梁の大きさなどは尺寸が基となっている。ベニヤやプラスターボードなどの板物も同様で、「サブロク」と言われる板が主流だ。これは3尺×6尺のことで、910mm×1820mmの大きさの板の通称である。単純に1m×2mの板にすればいいではないかと考える読者も多いと思うが、大工に言わせれば「サブロク」の方が扱いやすいそうだ。1mの巾では持つのに一苦労するとのこと。わずが80mmの違いだが、尺寸の方が日本人の身体寸法に合っているのであろう。
メートルで図面表記しながらも尺寸で考える。木造の現場ではごく当たり前のように二つの寸法体系が飛び交う。私も最近ようやく意図する長さが判るようになってきたが、慣れるまでは換算に手間取ったものだ。現場で元気な年輩者が多いのもここら辺が関係しているであろうか……。